無駄な深読み

ついったーに書ききれないことを書く、かも知れない

ちょっとだけの勇気があれば  『背筋をピン!と』の感想

 初めましての方は初めまして、そうでない方はお久しぶりです。グゥです。

 

 ちょっと長めの休暇をもらい、実家に帰ってきた私はなんとなく暇になって自室の本棚を漁っていたところ、懐かしい漫画を発見しました。つい手に取ってしまい、そのまま勢いで読み切り、興奮冷めやらぬ中感想を書き殴っているところです。気分は小学生の夏休みの宿題、強敵の読書感想文です(書き方も何も教えられず、ただ課題を与えられた小学生四年生の私は本の内容を時系列順に説明することしかできませんでした)。小学生の時よりかは成長していると思いたい。

 

 まずは読んだ本の紹介を。

 『背筋をピン!と〜鹿校競技ダンス部へようこそ〜』(以下背すじピン)は週刊少年ジャンプに2015年24号から2017年11号まで連載しており、単行本にして10巻で完結している漫画である。第2回次に来る漫画大賞コミックス部門第1位を獲得しているが、私は2011年46号に読切『競技ダンス部へようこそ』が掲載された時からのファンである(謎のマウント)。

 高校に進学した主人公土屋雅春が競技ダンスと出会い、競技ダンスにハマっていく青春スポーツ漫画である。先輩たちに、同学年のライバルに、そしてもちろん一緒にダンスを踊るパートナーに刺激をもらいながら、少年が成長していく物語である。

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 さてここで1つ、このブログを読んでくれている方に問いたい。ジャンプの、スポーツ漫画の、いや、物語の主人公達を思い浮かべた時、彼らに共通する、彼らを物語の主人公たらしめる要素とは一体何だろうか。圧倒的身体能力だろうか?相手の裏を掻く思考能力だろうか?何度倒れても立ち上がる精神力だろうか?もちろんそういった読者が思いもよらないような展開を見せてくれ、ワクワクドキドキさせてくれる漫画、物語は私も大好物である。だがこの『背すじピン』の主人公土屋雅春はそういった要素を1つも持ち合わせていないのである。

 

では土屋雅春は魅力のない主人公なのか?もちろんそんなことはない。彼の人間性、ひいてはこの漫画の魅力を次の言葉で表そう。

 

「等身大の青春」

 

先程物語を、主人公達を思い浮かべた時、皆はこう思ったことはないだろうか。

「俺も(私も)こんな青春送りたかった」

と。しかし同時にこうも思ったことだろう。

「俺には(私には)物語の主人公のようなことはできない」

 

 圧倒的身体能力で、頭脳で、精神力で、強敵と渡り合い、もしくは事件を解決していく物語は爽快である。それまで地味に暮らしていた主人公が隠された力に気づく物語は、自分にもそんな力があるかもしれないと思わせてくれる。しかし、人はある時気づくのである。自分は隠された才能なんてものは持っておらず、対戦相手を出し抜く策を0.2秒で考える知恵もなく、悔しくても血反吐を吐いてまで練習しようという気概もない、そんなモブAなんだと。

 

 小学生の時は、中学生になったら『ヒカルの碁』のように友人と部活動に打ち込むことに憧れた。中学生の時は、高校生になったら『アイシールド21』のように自分の才能に気がつき、新しい部活で活躍できるかもと妄想した。しかし実際に中学生、高校生になってみると、ヒカルやセナのような才能は自分にはなく、彼らのように1つの競技に打ち込めるわけでもない自分に気がつくのである。ただの凡人である私たちは、中学時代の涼宮ハルヒのように、自分が世界の主人公でないことを自覚する時が必ず来る。

 

 『背すじピン』の主人公土屋雅春はそんな私たちに非常に近い存在なのである。彼は、部活動紹介で目立っていた部活の体験入部に友人に誘われて行き、クラスで10番目くらいに可愛い女の子(私の偏見だがメチャクチャな美少女として描かれているわけではない)に一緒にやってほしいと言われてようやく入部を決意する。練習で才能を開花させるわけでもなく、いざと言う時にカッコいい台詞をはけるわけでもない。他の漫画の主人子が劇的に競技に出会い、運命かのように入部し、他の分野で培った力を生かすのに対し、土屋雅春は平凡に競技と出会い、地道に練習をし、本当にちょっとずつ力をつけるのである。

 

 そんな彼だが、唯一主人公らしく「ちょっとだけの勇気」を出す瞬間がある。それは、初試合で緊張で動けなくなったパートナーに対し、自分の言葉で、懸命に語りかける瞬間である。入部してからたった1ヶ月だが、その間にやってきたことをもう一度やろうと、ただそう言うのである。気取った言葉でもなく、歯の浮くような言葉でもなく、長年の経験に基づく言葉でもない。1ヶ月頑張った結果として感じたままの言葉である。彼は、私たちと同じか、下手したら少し後ろのラインにいながら、「ちょっとだけの勇気」を出して、私たちにあり得たかもしれない「等身大の青春」の1ページを見せてくれる存在なのである。

 

7巻のSTEP61「ちょっとだけの勇気があれば」の主人公の独白を引用してこのブログを締めようと思う。

 

「突然だけど 僕 土屋雅春はかなり平凡なやつである

勉強ができるでもない

運動ができるでもない

隠れた才能があるわけでもない

女の子と接するのも苦手

人前で目立つようなことも一切やってこなかった

漫画でいえば僕みたいのはいわゆる脇役

よくて主人公の友人Cとかそんなのだったと思う

 

だけど_…

だけど_…そんな僕でも_…ちょっとだけ_…勇気を出してみたんだ…!

 

(中略)

 

一瞬でも「主役になれたかも」なんて 以前の僕なら思いもしなかった

ちょっとだけでいいんだ ちょっとだけ勇気を出せば

変われるんだ 脇役が主役になれるくらいには」