無駄な深読み

ついったーに書ききれないことを書く、かも知れない

ワールドトリガーの遅効性の魅力はどこにあるのか。

お久しぶりです。グゥです。

 

今日は私が好きな漫画、「ワールドトリガー」について語っていこうと思います。

「遅効性SF」のキャッチコピーで知られるワールドトリガー、通称ワートリは原作はジャンプスクエアで連載中の漫画であり、2021/3/15現在アニメ二期放送中でもあります。

アニメを見て、漫画を読み返して、テンションが上がってしまったのでこの感情を言葉にしたい!ということで筆をとりました。

 

私が今回語りたいワートリの魅力は、以下の点です。

 

・主人公の三雲修がひたすら弱い

・登場人物がみんな「生きて」いる

・集団戦が面白い

 

 

それではそれぞれ語っていきましょう。

 

  • 主人公の三雲修がひたすら弱い

ワートリは地球とは別の世界にあるネイバーフッドから攻めてくる異世界人とボーダーという組織が戦う話です。つまりバトルものなんですが、この主人公の三雲修君、めちゃくちゃ弱い。バトルもので弱いといっても色々なパターンがありますが、修はただ単純に特筆すべき要素がなく、弱いんです。

 

まずワートリの世界では武器を扱う為にトリオンという力を使います。このトリオン量が多いほど強い攻撃をすることができます。ナルトでいうチャクラ、BLEACHでいう霊力です。基礎体力みたいな認識でも構いません。

修は一般的にサポートに徹するオペレーターの人並みのトリオン量しかありません。本来はボーダー入隊の時にそのトリオン量が低くて不合格になったのですが、無理やり隊員の推薦を取り付けてなんとかボーダーに滑り込みました。

つまり、入隊はしたものの、周囲に対して圧倒的に劣った基礎能力しか持ち合わせていないのか修なのです。

 

次に、修は戦闘センスがありません。ボーダー入隊直後の試験で仮想トリオン兵の撃破時間を競うのですが、だいたい1分クリアを目安とするこの試験で修は3分の制限時間内にトリオン兵を倒すことができませんでした。ちなみにトップクラスに優秀な隊員なら、入隊初日で10秒以内で倒していますし、元々訓練を積んでいた遊真は1秒を切るタイムをたたき出しています。

よくあるパターンで、特別な武器を扱う関係上みんなが使う普通の武器が使えない(ゼロの使い魔魔法科高校の劣等生、広義の意味では黒子のバスケなど)というのがありますが、修は特にそんなこともなく、みんなが使ってるのと同じ武器を使ってただ単純に弱いのです。

 

途中、チームの戦力が足りないと痛感し、新たな武器を模索するのですが、この時修が習得したのは味方の補助をするトリガーでした。

他の漫画では修行して必殺技を身につける主人公が多い中、修が身につけたのはなんとサポートのトリガー。あくまでもチームとしての力を高める選択をしたのです。単体の戦闘力で言えば、1巻では下の下だった戦闘力が23巻現在では下の中といったところでしょうか。つまり、ほとんど強くなっていないのです。

 

素質もない、戦闘センスもない、となればきっと頭が良くてすごい作戦を思いつくんだろうと読んでいて思った方は何人かいることでしょう。

 

残念ながら修は中の上程度の頭脳しか持ち合わせておりません(筆者調べ)。

 

模擬戦の作戦も、1週間睡眠時間を削って考えて教科書どおりの作戦で、観戦していた上位組の一人には「戦術をかじっただけ」と言われる始末です。トリガーの使い方も独特な使い方をするわけでもなく、本当に基本に忠実な戦い方です。

 

 

ここまで書いてきて、じゃあ修は全然いいところがないのかというと、もちろんそんなことはありません。

修の印象的なセリフに、次のセリフがあります。

 

「僕がそうするべきだと思っているからだ」

 

このセリフは、修に暴行していた不良たちをトリオン兵から助けようとした修に、その不良たちをなぜ助けるのかと遊真に尋ねられて返した一言です。また、修は「一度でも逃げてしまったら、本当に戦わないといけない時でも逃げてしまうかもしれない」とも言っています。自分が傷つくのは気にもとめないけれども、自分以外が傷つくことになると全力でなんとかしようとするのが修のいいところですね。でも、やっぱり実力がないから修1人では大抵の場合どうすることもできない。実際、今までで修1人の力で敵を撃破したことは1回あるかどうかだと思います。それでも修の懸命な姿を見ていると、周囲もどうにか助けてあげようって思うんでしょう。

 

 

そんな修の人柄を表すエピソードで、一つお気に入りのものがあります。それは、敵が攻めてきて修が決死の戦いをし、大怪我をしてもなおボーダーで戦うと言った修に、修の母はこう言います。「沢山の人がお見舞いに来てくれたけど、意識のない修を見てボーダーをやめたほうがいいと言う人は1人もいなかった」と。馬鹿正直な行動しか取れなくて、戦闘でも弱くて、特筆する取り柄もないような修だけど、そんな修のことを周囲はちゃんと見ていてくれて、わかってくれているんだなと言うことがわかり、自然と目頭が熱くなりました。修は、初見で「こいつやるな!」とはならないんですけど、じわじわと味方してあげたくなる人物なのです。

 

総括するとワートリの魅力の一つは、めちゃくちゃ弱い修が、ほんのちょっとずつ成長しながらも力の足りなさを噛み締め、周囲の人に助けてもらいながらなんとか進んでいくところ、ということですね。

 

 

  • 登場人物がみんな「生きて」いる

主人公の修が魅力的な人物であることは上で述べましたが、魅力的なのは修だけではありません。出てくるキャラクターみんな魅力的なのです。どのように魅力的かというと、漫画では描かれていない部分がよく考えられている点です。修たちが所属するボーダーは5年前に作られた組織ですが、その頃から知り合いだった人たちは会話をしている時に含みのある言い方をしたり、以前登場した人物と新登場の人物の繋がりが語られていたり、まだ登場していない人物が会話の中だけで登場したりと、漫画のための世界ではなく、ある世界が存在して、ワートリという漫画がその一部を切り取っていると感じることができるのです。

 

いくつか例を出しましょう。諏訪隊の笹森という青年は、アフトクラトルという敵国から大部隊が攻めてきた時、自分を残して目の前で隊長の諏訪を倒されてしまいます。その後救援にきた風間隊に一緒に戦うことを志願しますが、連携が取れないことを理由に断られます。どうしても諏訪の仇をとりたい笹森は食い下がりますが、「じゃあ勝手に突っ込んで死ね」と風間に一刀両断されます。悔しい思いをしながらも別の戦場に向かう笹森ですが、彼にとってここは大きな転換点となります。のちのランク戦(部隊同士の模擬戦)では「戦力が足りないからこちらに回された」と煽られるも、「自分の役目はここだ」と個人の感情とチーム全体の戦略を分けて行動し、きちんと戦果を上げました。アフトクラトルの属国であるガロプラが攻めてきた時も、戦況全体を考えて自分の役目はあくまでここで敵を足止めすることだときちんと把握して先頭をしています。彼は決して主要人物ではなく出てきた回数も数える程ですが、どんな人物でもきちんと思考があり成長・変化が描かれるといういい例です。

 

次に修たちの玉狛第二、香取隊、柿崎隊のランク戦では、修だけではなく他の人も誰もが主人公になりうることが描写されています。香取葉子は5年前にネイバーが攻めてきた時に家族よりも自分を優先して助けてくれた友人と共にボーダーに入ります。持ち前の要領の良さでどんどんランクを上げていきますが、上位の壁に当たっては武器を変え、また別の武器で壁に当たると今度は戦法を変えます。そんな才能がありながらも最後までやり抜くことがでくない香取に対し、チームメイトの若村は憤りを覚えています。

柿崎隊は元ボーダー上位チームに所属していた柿崎を隊長と、中学生ながら優秀な隊員2名で構成されています。柿崎は元々所属していた隊の同期に対して劣等感を抱いており、現隊員の2人が力を出しきれていないのも自分のせいだと考えています。しかし修たちとの戦いを経て、自分だけで背負いこむのではなく皆で一緒に考えて戦っていこうと考えるようになりました。

 

このように、あくまで今回ワールドトリガーで描写されているのは修の物語だけど、その周り、その裏には無数の物語が存在しているのです。

 

あげるとキリがないですが、味方だけでなく敵側でも部隊の意思とは別に一人一人の意思、思惑が描写されており、総勢100人を超える登場人物がいても、背景や思考のない人物は存在しないと断言できます。

 

  • 集団戦が面白い

今回紹介する最後の項目です。ワートリでは、戦闘のほとんどが集団戦になります。そしてこの集団戦の描き方が素晴らしく面白い。個人戦ではなくあくまで集団戦なので、接近戦がめちゃくちゃ強い奴がいても離れたところから複数人で倒したり、逆にスナイパーにわざと狙わせて位置を特定し別の味方がスナイパーを倒しに行ったりと、今書いたのはほんの初歩ですが、10〜15人で行われるチーム対抗のランク戦では全ての人物が、もっと複雑な作戦をそれぞれきちんと思考しながら行います。

修が弱くても戦えている理由はここにあって、例えば修のチームメイトが敵チームと戦っている時にわざとレーダーに映って敵の背後に回り込むと、どんなに弱くても敵はそこに注意を割かざるを得ません。例えばドッジボールで正面の強い球を投げる男子と戦っていたとして、外野に非力な球しか投げられない女子でも、二つ目のボールを持っていれば警戒せざるを得ない、そんな感じです。

チームの戦術はその隊ごとにそれぞれで、1人の火力が高い隊員を他が全力でカバーしたり、近距離複数人で連携して敵を1人ずつ倒したり、逆にスナイパーだけで敵を翻弄し続けたり。地形、天候、戦況によっても戦略は変わってきて、その時々の状況に各人がどう対応するかも見どころの一つです。

 

例えば、修の玉狛第二が那須隊、鈴鳴第一と対戦した時、あくまで強いエースを活かす為にチームの合流から攻めに転じる作戦を事前に立てていた修でしたが、その作戦に固執すると敵チームのみが合流し自チームが分断される可能性が高いことを考えて全チームを分断させる作戦をとりました。結果的に修は頼れるエースがいない状況で敵のエースと戦うことを余儀なくされます。元々考えていた状況とは異なりますが、修は3チームの三つ巴であることを利用して、強力な那須隊のエースに対して鈴鳴第一と擬似的に共闘という形をとることでトリオン切れにまで追い込みました。このように、各チームがそれぞれの思惑を持ち、相手の作戦を阻止し、自分たちの得意な土俵に引きずり込む、そんな駆け引きの熱い集団戦がワールドトリガーでは楽しめるのです。

 

 

 

 

このブログの書き出しで、ワートリは「遅効性SF」というキャッチコピーがあると言いました。ここまで読んでいただいてわかった方も大勢いるかとは思いますが、今挙げた魅力のほとんどが、ある程度長く読んでないと気が付かない魅力なのです。読んでいて最初はそうでもないけど、段々と面白くなっていく、そんな「遅効性」の面白さがこの作品には秘められています。

 

 

最後に私の好きな別の漫画の紹介を。

こちらも主人公がほんのちょっとずつ成長する作品ですので、ワールドトリガーが好きな方は好きかもしれません。

ちょっとだけの勇気があれば  『背筋をピン!と』の感想

https://guwhare.hatenablog.com/entry/2020/07/21/185745