無駄な深読み

ついったーに書ききれないことを書く、かも知れない

職場の先輩の漫画を読むことになった話

 皆さんは兵庫しんじという漫画家をご存知だろうか。

 

 月刊アフタヌーン週刊モーニングで一度ずつ読み切りを掲載した漫画家である。私は今日まで知らなかった。

 

 なんとこの漫画家、私の職場の先輩である。先輩は以前漫画家を目指しており、2006年と2009年に読み切りを掲載するも、連載を取るには至らず、私の今の会社に就職したのである。兵庫しんじファンの皆さん、彼は現在もしっかり生きているので安心して欲しい?

 

 さて、なんでこんな話をしているのかというと、話の流れでこの2本の読み切りを借りることになったからである。

 

 創作物を読んだり見たりすることは数あれど、その作者が知り合いで、面と向かって感想を言うことはそう多くない(ないとは言わない)。不慣れなことをするためには、とりあえず言葉にまとめてみようと筆を取った次第である。2本とも簡単にまとめてみる。

 

  • 嘘つきのひと

 主人公の浅野はデザインの仕事をしているサラリーマンである。浅野は、デザインをする時は『ボク』という人格になり、会社で人と話す時は度の合わないメガネをかけて『ワタシ』という人格になる。『ボク』はデザインをする時は非常に優秀で、『ワタシ』はそのデザインを完璧にプレゼンし、コンペを勝ち取る。浅野はそんな二面性を使い分ける人物である。しかし、ある時浅野はいつものように臨んだコンペで熱意がないと評され落選してしまう。そんな時、浅野の前に、第三の人格である『オレ』が現れる。『ワタシ』としてついていた嘘を破壊し尽くした『オレ』は、実は宇宙人のフジイであり、フジイは浅野が失敗と評したロケットを浅野らしいといって月に飛び立って行った。

 

 

 フジイは浅野にロケットのデザインを頼んでおり、浅野はその船体の塗装を大きく失敗してしまう。しかしフジイはこっちの方が浅野らしくて好きだという。そして旅立つ直前に浅野に次の言葉を残すのである。

 

「責任を取るためには名を刻むことや。それが優れたデザインを生む。名を刻め、責任を持て、今すぐにや!」

 

 この言葉は、今までデザインをする『ボク』とそれを発表する『ワタシ』を分けていた浅野には衝撃である。デザインを生んだ浅野本人が胸を張ってデザインを公表するべきだ、と伝えてくるのである。

 

 最後に浅野が失敗と言ったデザインのロケットでフジイが宇宙に飛び出すシーンは、デザインを考える『ボク』でも、それをプレゼンする『ワタシ』でも、もちろん周囲との関係を清算した『オレ』でもない、浅野本人を肯定していることを意味しているのだろう。

 

 作品を通して作者は、責任を持ってこそいい作品、いい仕事ができると言っていると感じた。ボランティア関係で度々話題に上がる話。最近もオリンピックとかスクスタのストーリーとかで聞いた気がする。

 

 

 

  • 喰らう怪物

 主人公の住谷はボクサーである。彼には幼少期から人を喰らう怪物が見えた。住谷はその怪物が人を喰らうのはその人が敗北した時であると直感的に理解しており、怪物に食喰われないよう必死に努力した。そのうち住谷は幼い頃から気になっていたミカと付き合い、ボクシングも怪物に喰われたくない一心で強くなり、世界王者に手をかける。しかしそんな日々の中、いつのまにか怪物が見えなくなっていることに住谷は気がつく。気がついてからは住谷は連敗し、ミカとも距離が離れてしまう。そんな自分の現状にヤケクソになり挑んだチャンピオン戦で、住谷は相手に怪物がついていることに気がつく。辛くもその勝負に勝った住谷はミカの元に駆けつけるが、ミカにはすでに別の恋人がおり、それを見た瞬間、住谷は怪物に喰われる。怪物は『おんな』なのだと。

 

 

 さて、この物語のキーである怪物とは何なのだろうか。住谷は最後、怪物は女だと締めくくるが、実際はそうではないだろう。根拠として、住谷に敗れたチャンピオンはその場で怪物に喰われているのである。

 

 私が思うに、怪物とはその人が本当に大切にしているものである。住谷にとってはミカであり、チャンピオンにとってはボクシングである。人は、一度それを手にして失った時、怪物に喰われるのであろう。欲しいものを手に入れようと足掻く時には人は能力以上の力を出し、手に入ると安心して手に入れたものをぞんざいに扱い、そして失って初めてそれを渇望していた自分に気がつく。その過程を怪物に追われ、怪物が見えなくなり、最後には怪物に喰われると表現しているのである。

 

 ちなみにこの物語は住谷の父親が怪物に喰われるシーンから始まるのだが、家財を差し押さえられている描写があることから、住谷の父親の怪物は家族という形態であり、借金によって離婚、破産と家族が崩壊したため、怪物に喰われてしまったのではないだろうか。あくまで想像の域を出ないが。

 

 

 

 ざっと作品のあらすじと感想を整理することができた。これで明日先輩に感想を求められても、無難に返すことができるだろう。

 

 いろいろ考察してみたが、先輩に聞いてみたら「そこまで考えてなかった」とか言われたらそれはそれで面白いなと。考察はあくまで二次創作で正解ではもちろんないし押し付けちゃいけないよなと改めて心に刻んでおく。

 

 

 

  • 後日談

 先輩に上で書いた様な感想を伝えたら、概ね好評であった。

 

ただ、喰らう怪物の解釈については、「怪物は勝利の女神、くらいの意味だったわ〜。勝利の女神は気まぐれ、みたいな?まあグゥの解釈も成り立たつな!」って言われたのでやっぱり作者はそんなに深く考えてないし考察は永遠に二次創作なんですよ、心しとこう。